宅地建物取引士として分かりやすい解説を心掛けています。
引越しの多くなる季節になってきました。
そこで増えるのが原状回復の費用をめぐるトラブルです。
預けた敷金が返ってこない!
高額なクリーニング費用を請求された!
など私も多くのご相談を頂きます。
そこで今回は賃貸物件の退去時に確認したい
「国交省のガイドライン」や「東京ルール」についてご紹介いたします。
賃貸物件の退去トラブルで悩む方に少しでもお役に立てれば嬉しいです。
さあ、一緒に見ていきましょう!
・これから引越を予定している人
・退去の際にトラブルを抱えている人
目次
退去時の原状回復と敷金の返還

お世話になった思い入れのある部屋を退去する時くらい気持ちよく去りたいものですよね。
その際に気になるのが「原状回復の費用」と「敷金の返金」ではないでしょうか。
きれいに使っていたつもりでも
「敷金が返金されなかった」とか
「逆に追加費用を請求されてしまった」という相談をよく頂きます。
実はこういった相談が多いため国交省が原状回復に関するガイドラインを定めています。
また東京都でも「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」が定められおり、「東京ルール」と呼ばれています。
入居者にとっては有難いガイドラインなのですが...読むのが大変!
そこでポイントだけ簡単にまとめます。
そもそも、敷金とは何か

敷金とは入居者が家賃を支払えなくなった時にそなえて、契約時に
「入居者が大家さんに預けるお金」
のことですね。
家賃の1ヶ月分〜3ヶ月分くらいが相場です。
物件によっては敷金ゼロもあります。
たとえば「家賃が支払えなくなった」
「退去後に設備を修理・補修しなければならない」といった場合、
大家さんは敷金の中から必要な費用を差し引くことができるとされていました。
そのため入居者の過失ではないにもかかわらず
「経年劣化した壁紙の交換に敷金が使われた」
などのトラブルが頻発しました。
本来は預けた敷金から未払い債務を引いたものが返還されます。
ちなみに未払い債務とは「未払いの賃料、原状回復費用」などです。
つまり、
家賃の滞納がなくて原状回復の負担分が無いなら、敷金は全額返ってくる
ということが前提なんです。
ちなみに「敷金」は地域によって「保証金」や「権利金」とも呼ばれたりします。
2020年4月1日から施行される民法改正により、
家賃の担保を目的として預けるお金を「敷金」と定義することになります。

そもそも、原状回復とは何か

賃貸アパートやマンションを退去する時に、入居者は「原状に回復する義務」があります。
この「原状に回復する」がトラブルのもとなのです。

不動産の専門用語がわかりづらいのですが
・賃貸人 → 大家さん
・賃借人 → 入居者(あなた)
さらに難しそうな言葉は、ざっくり言うと
・経年劣化 → 壁紙も時間が経てば、そりゃ劣化するよね
・自然(通常)損耗 → 壁紙も普通に使っていれば傷むよね
・善管注意義務 → 普通に、ちゃんと過ごしてね
・故意、過失 → わざとやったり、うっかりはダメだよ
ということです。
経年劣化や自然(通常)損耗は大家さんの負担と定められています。
入居者が原状回復で負担するのは善管注意義務に反する分、故意過失の部分ということ。
またまた、ざっくり言うと入居者は
普通に生活して使っているなら分については原状回復を負担しなくて良いぞ!
ということです。
ここでポイント!
ガイドラインでは原状回復の定義について
「原状回復とは、貸借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、貸借人の故意・過失、善管注意違反、そのほか通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(きそん)を復旧すること」
と定めています。
そしてさらに
「貸借人が借りた当時の状態に戻すことではない」
ことを明示しています。
ありがたや、ありがたや。
この考え方が重要ですよね。

経年劣化、通常(自然)損耗にあたる例として
・壁に貼ったポスターや絵画のあと
・日差しになど自然現象による壁紙や畳、床の変色(色あせや黄ばみ)
・家具の設置による床やカーペットのへこみ、設置したあと
・テレビや冷蔵庫などの背面の壁紙の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・地震で破損したガラス
・鍵の取替え(破損、鍵の紛失がない場合)、網戸の張替え
経年劣化、通常(自然)損耗にあたらない例として
・引っ越し作業で生じたひっかきキズ
・タバコのヤニ、臭い
・飼育ペットによる柱等のキズや臭い
・エアコンなどから水漏れし、放置したために発生した壁や床の腐食
・窓の結露を放置して拡大したカビ、シミ、腐食など
・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の毀損
経過年数による減価償却を考える
また難しい言葉が出てきましたね。
これもざっくりと言うと
経過年数による減価償却 → 壁紙や設備も時間がたてば価値が下がるよね?
ということです。
入居者の原状回復の負担分については、建物や設備などの経過年数を考えて、
入居した年数が長いほど負担する割合を減らすのが適切じゃないのか?
という考え方です。
ガイドラインでは目安として法人税法による減価償却資産の考え方を採用することにしています。
減価償却資産ごとに定められた耐用年数で残存価値が1円となるような直線を描いて、
経過年数により入居者の負担分を決定するように定めています。

グラフも難しいですね。
例えば、壁紙(クロス)の耐用年数は6年とされています。
6年間、普通に生活して過ごしたのなら新品だった壁紙の価値は1円になっているということです。
つまり6年間入居して、タバコも吸っていないし、掃除もちゃんとしているし、
目立った傷やヘコみが無いなら、
入居者は壁紙の交換費用を負担する必要がない
ということになります。
もし、まるまる3年間入居したのなら、壁紙の価値は半分になっています。
故意や過失があるならば、最大でも「壁紙の交換費用の半分」が入居者の負担分となります。
「交換費用の半分」を超えて請求されるようであれば、
大家さんや管理会社に理由をたずねてみましょう。
その際に、
「国交省ガイドライン」、「東京ルール」
と念仏のように唱えてみて下さい。
担当者の対応が変わるかもしれませんよ。
さらに、あなたの入居時に壁紙が新品でなかった場合、
例えば前の入居者が3年間入居していて壁紙のクリーニングだけで済ませていて
あなたが3年間きれい使っていたとすれば壁紙は6年間使っていることになりますね。
その場合も壁紙の残された価値は1円しかない、と言えます。
契約書に特約が付いている場合

お部屋の賃貸借の契約で大家さんと入居者の間で特約をもうけることは認められています。
ガイドラインでは借地借家法や消費者契約法などの趣旨や最高裁判所での判例など
をふまえて原状回復について入居者に不利な内容の特約については次のような
要件を満たすように求めています。
・特約の必要性があり、かつ暴利的でないなど客観的・合理的な理由
・入居者が特約によって通常の原状回復の義務を超えた修繕の義務を
負うことについて認識していること
・入居者が特約による義務負担の意思表示をしていること
お部屋の契約時に宅地建物取引士から「重要事項の説明」があります。
その際に原状回復やクリーニングのルールについて説明があったはずです。
しかし実際は署名や押印をしなくてはいけない書類が多いため、細かい特約まで目を通していない方が多いのが実情です。
今一度、ご自身のお部屋の契約書を確認なさって下さい。

ガイドラインや東京ルールはあくまで指針ではありますが…

国交省のガイドラインや東京ルールあくまで指針であり、法律や条例ではありませんので罰則がありません。
しかし最高裁での判例などをもとに作成されていますので、同様のトラブルが発生した場合にはガイドラインにもとづいた判決が出る可能性が高いと言えます。
大家さんや管理会社にとっても不利な裁判をしかけることは時間と労力の無駄使いになりますので、賢い入居者に対しては大家側も妥協するケースが増えてきました。
私も以前、管理会社に勤めていたことがありますが、たしかに退去しようとする入居者に対してクリーニング費用をぼったくろうと考えている大家さんがいたもの事実です。
そんな時は、
「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインがありますよね?」
「壁紙や設備も減価償却しますよね?」
と、つぶやいてみて下さい。
大家さんや不動産屋側から「この入居者からはぼったくれそうだな」
と思われたら、あなたの大切な敷金が狙われています。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインがありますよね?」
「壁紙や設備も減価償却しますよね?」
と、ひと言つぶやくだけでも「この入居者やるなぁ」「ぼったくれないなぁ」と思わせることができるでしょう。
あなたの大切なお金である敷金をしっかりと返してもらえるよう、願っております!
お引越し予定の方へ、最後にひと言

不動産業にかかわる者として、
退去時に原状回復の費用をぼったくろうという考えを残念に思っています。
不動産業界の一部では、
・入居時にはフリーレントを付けたり、礼金ゼロにしたりと厚くおもてなし
・退去時には原状回復の費用をふっかけて足かせとする
このように考えている会社も確かにあります。
退去時の敷金の返還や原状回復の費用については本当にトラブルが多いですし、苦い経験をされた人も多いことでしょう。
少しづつでも、退去時のトラブルが減ることを願っています。
そのためには、入居者の皆さんにも知識を付けていただき、ご自身の大切なお金を守れるようにしましょう!
【国交省:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の詳細はこちらから】
【原状回復をめぐるトラブルとガイドラインPDF】
【東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(東京ルール)の詳細はこちら】